FEATURE

2023.03.24

FEATURE 09 留学生と回る新今宮スタディツアー

「聖地巡礼 新今宮スタディツアー」と称して、娯楽・芸能・労働・支援・宿泊の聖地を巡る2時間のツアーを企画中である。昨年と今年にかけてモニターツアーを重ねた。今回は外国人がどう感じるかを検証しようということで、大阪市の留学生プロジェクト(「外国人留学生との連携拡大及び起業支援事業」)に参加している学生たちに新今宮のスタディツアーに参加してもらった。その模様を以下で紹介する。

真夏の暑い中、参加してくれたのは、中国、韓国、ベトナム出身の日本の大学で学ぶ留学生たち。全員が日本語堪能で、日本語のガイドでのツアーとなった。日付を変えて2回行った。

まずは、YOLOBASEという外国人の就労支援施設のカフェでオリエンテーションをして出発した。新世界は行ったことはあるが、それ以外は行ったことがないという人が多かった。みんな、自主的にメモを取りながらガイドの話に耳を傾ける。

次に西成労働福祉センターへ。ここは、地域の労働者を支援する施設。日雇い労働者をはじめとする地域の求人紹介や、労働者の生活相談、技能講習などを行っている。

「日雇い労働の歴史や仕組みを学んだ。日本の経済成長の華やかな面しか知らなかったがこういった人が支えていたのかということが理解できた」

「今のままでは断片的にしか日雇い労働者の生活がわからない。もっとわかりやすく労働者の一日を知りたい」

という声があった。留学生が相手ではあったが、極端にわかりやすくするわけではなく、日本人に向けて話すように話し、スピードもやや早く、難しい単語も時折出てきた。しかし、みんな日本語が堪能でしっかりと理解していた。

次にあいりんシェルターへ。様々な事情で野宿せざるをえない人たちにベッドを提供する施設である。定員は450人で、ベッドがずらりと並んでいる。利用者がいない時間に内部に入り、見学をした。

たくさんのベッドが並ぶ風景はとても印象的だったよう。真剣なまなざしでガイドの解説を聞く。

「自分の国にも生活困窮者は多くいるが、支援のシステムはまだ整理されていない。このような仕組みが自国にあるといいと思う」

と感心していた。

次にたくさんの宿泊施設がある太子エリアへ。この中でも労働者の宿からゲストハウスへと転換して成功した「ホテル東洋」を見学する。コロナ禍で旅行者は少ないが、かつては世界中のバックパッカーがここを訪れていた。

学生だからバックパッカーというわけではなく、旅人の歴史が染みるホテル東洋に圧倒されていた。外を回るだけでなく、建物の内部を見て、体験できたことで満足したよう。

昔ながらの民家が立ち並ぶ山王エリアへ。かつてここでは400人の芸人が暮らしていた。ミヤコ蝶々、海原お浜・小浜、平和ラッパ、大丸・ラケットなど芸能の歴史に名を刻む芸人が住んでいた。この写真の場所は芸人長屋といい、一軒一軒に芸人が住んでいた。

街を歩き、写真資料で昔の芸人たちを紹介するものの、留学生たちは日本の芸能がよくわからずにあまり印象的ではなかった。今の日本人でも知らない名前の芸人が多く、ここは課題となった。しかしながら、山王の懐かしい街並みはよかったようだ。

山王から新世界へ。じゃんじゃん町へと入っていく。1本道を隔てただけで、街の雰囲気ががらりと変わる。狭い道に並ぶおいしそうな店に留学生も楽しげなよう。観光客気分でまちあるきを楽しんだ。

新世界の賑やかな街とその背景にある歴史を紹介した。1903年の第5回内国勧業博覧会、今でいう万博の跡地であったここは、東側が天王寺公園に、西側は新世界と呼ばれ、ルナパーク という遊園地や初代通天閣が建設された。まわりには10を越える劇場や映画館があった。

映画が下火になるにつれて、劇場は、パチンコ屋となり、さらに串カツ屋へと変わっていった。華やかさの裏にある歴史を知ることができたと留学生は語る。

終了後は会議室にてツアーをみんなで振り返った。

「 今まで見えなかった日本が見えた」

「貧困の歴史を前向きに取り入れていることがわかった」

という肯定的な意見と

 

「情報が多く、娯楽性が欠ける」

「勉強をしている人が主な対象に思える」

「あいりんシェルターやホテル東洋など体験できる場所はよかったが、説明だけの部分は頭に入ってきづらかった」

という意見もあった。普段は見て回れない西成区周辺の労働と支援関連の施設が特に印象に残ったようだ。留学生からは、今後もっと楽しさと体験を増やした方がいいと提言をもらった。

ツアーはまずは留学生にツアーを回ってもらい、その感想を踏まえて私たちが修正案を作り、もう一度ツアーを回ってもらう計画であった。しかし、留学生から「自分たちでツアーのコースを考えてみたい」と前向きな提案をもらった。後日、留学生の考案したモデルコースを回るということで合意し、第1回のツアーは終わった。

 

 

真夏から真冬になって、約5ヶ月後、留学生のアイデアを元にツアーを回った。

前半は前回とほぼ同じ。前回特に印象に残った、西成労働福祉センターやあいりんシェルターを再度訪れ、新今宮の労働と支援について学んだ。

途中、留学生の提案にあった商店街の中の純喫茶でひとやすみ。

「雰囲気に癒される」

「オシャレな感じとは違って、普通におばあさんとしゃべれる感じがよかった」と好評だった。

その後はこれも留学生の提案にあった銭湯へ。時間の関係から入浴はできなかったが、脱衣所を見学したり、

番台近くで売っている駄菓子を買ったり、牛乳瓶に入った昔ながらのコーヒー牛乳を飲んで、日本らしさを楽しんだ。

銭湯の女将さんの解説もあってとても満足したよう。

「服を脱いでみんなでお風呂に入るという文化が自国にはないため、ためらいもあるがいつか時間があればゆっくり入ってみたい」

「大阪の深いところを知ることができた、庶民の文化が学べてよかった」

と好評だった。

そして、ランチはこれも留学生の要望で新世界の釣った魚が食べられるお店にて。釣った体験と新鮮な魚の味に満足した様子。

食後は路面電車に乗って新世界から2駅分だけ移動する。

大衆演劇場で時代劇を観劇した。時間に限りがあったため、すべては見れなかったが

「セリフはよくわからなかったが、ストーリーはわかりやすかった」

とても日本らしい新鮮な体験だった」

と感激していた。

最後に振り返りのミーティングを行った。

「はじめての大阪の人には難しいかもしれないが、リピーターには良いと思う」

「前半の勉強と後半の娯楽とがあるのがよかった」

と満足度は前回よりもかなり上がった。今回のツアーは留学生の提案をすべて取り込んで、まる1日のツアーと盛り沢山ではあったが、もう少しコンパクトにして、今後のツアーのプログラムを作っていきたい。

留学生の率直で、町を想う純粋な意見はとても参考になった。留学生のみんな、本当にありがとう。みなさんの気持ちをしっかりと受け継ぎ、新今宮の魅力を伝えていこうと思う。