新今宮の太子交差点の南側はかつて多くの労働者が集まった簡易宿所街。
高度経済成長期には求人は絶えず全国から職を求めてたくさんの人々がやってきた。軒数でいうと1989年には210軒の簡易宿所が稼働していた。宿泊者のピークは1991年の16,623人となっている。その後バブル経済期をピークに宿泊者数が減少し、客室稼働率も大きく落ち込んだ。
利用者のニーズが変わり、簡易宿所はアパートやゲストハウスに転用されていく。今まで通りの労働者の宿。高齢化した当時の労働者、生活保護受給者などを対象にした福祉アパート。そして旅行者のための宿、という三つのルートができてきた。
今回は簡易宿所の新しい利用方法にチャレンジし個性豊かなホテルやゲストハウスで国内外から旅行者を集めている、簡易宿所組合の山田さんと浅田さんのお二人にお話を伺った。
山田:もともと親父がホテルをやってたんですけど、僕がこの仕事をはじめたのは2004年くらいからで、オーストラリアから17 年前帰ってきたときです。
留学とワーホリでオーストラリアにいて、そこで出会ったのが日本に行きたいけど日本は高いっていう人ばかりだったんです。泊まるところも高いって。オーストラリアも高いところは高いけどドミトリーで一泊2000円くらいで泊まれるところがいっぱいありました。いやいや日本にもこういうところあるよいうて。
そうか、認知度がないねんなって分かって。そこから日本に帰ってきて海外向けの予約サイトにもうちのホテルを登録しだして、世界にアピールして一気に外国人のお客さんが増えてきたんです。HPとかは親父が前からちょこちょこつくっていたんですけどね。
まあだいたい僕の最初はこんな感じです(笑)はい次どうぞ!
浅田:ほぼほぼ僕も流れは一緒なんですけど(笑)
2003年頃にここに来て、大学卒業してからうちの祖母がやっていた簡易宿所をちょっと手伝おうかなと思って。その頃にはもう労働者の方もほとんどいなくてめちゃくちゃ稼働率も低かったです。それから簡易宿所の組合にも参加して、海外の人をもっと受け入れていこうよという話になって。その流れで僕も一緒に頑張ろうと。
あとでうちの「ホテル東洋」に来てもらったらわかると思うんですが設備的にめちゃくちゃ古くて・・・。エレベーターもないし階段しかなくて、電力の問題でエアコンとかもない部屋ばっかりだし外観とかも古いしっていうので。
日本人の観光客とかは僕の中ではターゲットから外して。ほら、街のイメージもありますからそういうのにとらわれない海外の人にターゲットを絞りきって海外のサイトとかに情報を出していきました。
山田:流れを説明しますと、ずっと労働者の街だったところが労働者が減ってきて。このままいかれへんということで観光に福祉に今までどおり労働者っていう3方向の流れに分かれました。
浅田:観光もいろいろな考え方いろんなやり方によって客層がどんどん分かれてます。
山田:このエリアを一括りにしてこういうお客様が多いというわけではなく、それぞれの取り組みで全然ちがうお客様が来るようになっていってるというのが今の現状なんです。
浅田:うちはバックパッカーで短期泊よりも中長期的な人の方が多いですね。
山田:うちはスーツケースのコロコロだったり、旅行者です(笑)
浅田:交通の便がとにかく良いので、京都行ったり奈良行ったり難波行くとか。世界的にも有名な高野山に行ったりとか。やっぱり新今宮をベースにして近畿圏をまわるとかいう方が比較的多いんじゃないですかね、海外の人だと。
山田:やっぱり価格と交通の利便性が一番です。空港まで一本で行けますんで。南海使ってもJR使っても新今宮から一本で行けますし。御堂筋線で難波梅田新大阪環状線も通ってますし。奈良に行くのも一本で行けます。京都に行くのも堺筋線がありますし、JRでも大阪ひょいっと行けますし、いろんな場所へここから行けるんですよ!
浅田:それはもう一番アピールしなきゃいけないところですね。やっぱり口コミとかで書いてもらってる文章でも「すごい安いプライスです」とか「ここから〇〇へのアクセスはどうで」とか多いですよ。さらに「京都まですぐ行けるんや、奈良まで日帰りで」とかどんどん膨らんで広がっていきます。
山田:宿が集まっていること。
僕も大学生の時バックパッカーやったんですけど、タイでいったらカオサンロード。昔は本当にバックパッカーの安宿ばっかりやったんです。なんであそこにみんな行くかいうたら、行ったらどっか空いてて泊まれるとこがあるだろうと。予約するいう発想がなかったんです。あんだけ集まってたら予約なしでもOK。
山田:そうですそうです!そういう形でエリアとして売り出して、ここもとりあえず予約せんでも来て大丈夫と。
浅田:コロナ前はふらっと来てくれるお客さんが多かったですよ。
山田:うちは客層変わってきてだいぶ少なくなったんですけど。もちろんいまでも突然来てもらっても全然大丈夫ですよ。最初の頃はそういうお客様もめちゃくちゃ多くて、もう行き当たりばったりで渡り歩く。そっち泊まって嫌やったらこっち来る、また嫌やったらどっか行くみたいなね(笑)
浅田:結構ここら辺で循環している人たちもいっぱいいるんですよ。また泊まりに来たりもしますし、出て行ったなあと思ったらそこおったとかね(笑)
山田:やっぱり宿が集まっている分、選択肢が広がるのですごくいいことです。まだここは観光も発展途上ですけど観光客がいっぱい来るようになったら多分周りも変わってくると思うんですよ。タイのカオサンが、安宿がちょこちょこあったところに旅行者が来て。その人たちを相手に商売する人が来て。
浅田:屋台とかいっぱい出てね。
山田:それそれそれ。屋台とかがいっぱい増えてきてホテルが増えて、さらにまた屋台が増えてみたいに発展していった街なんです。 ホテルが集まっているところに自然とお店もできてくるんですよ。だからここも一大宿泊街になる可能性はありますし、そうなっていって欲しいと思ってます。
浅田:今もまだ労働者の方がたくさんいらっしゃいますけど、どんどん減っているという現状があって。その先の事も僕らは考えています。
山田:街もまた変わっていくんかな・・・。
山田:「ホテル来山」の館内は労働者用で、ずーっと廊下でロビースペースがなかったんです。外国人の旅行者を受け入れるにために、まずロビースペースをつくりました。あと浴室が大浴場だけだったんで、外国の方だとなかなか大浴場に慣れていない人もいるのでシャワールームもいっぱいつくったり。日本人以外だと人前で素っ裸になる瞬間がなかなかないので抵抗ある人も多いし。あまり抵抗ない人も全然いけるんですけど。
山田:行きたがる人は行きたがりますよ!スパワールドとかもすごい人気ですし。大丈夫な人と抵抗のある人がいるので、僕らは抵抗のある人もちゃんと泊まってもらえるようにしないといけないので。抵抗のない人たちは最初から浴槽に入ります。あと泡風呂にしてしまったり・・・
浅田:洗剤をつけたまま中で洗うとか(笑)
山田:ボディーソープの泡いれて泡風呂する・・・
浅田:「ホテル東洋」は大浴場全部潰して全部シャワー室に変えたんです。和便器だったトイレも全部洋便器に変えて。
山田:うちの「ホテルPivot」のトイレは金色にしましたよ(笑)
山田:うちは日本人と海外の方が半々です。
浅田:うちはほぼほぼ、もう90パーセントとかが海外ですね。欧米の方もある程度の割合で他よりは多いですけど、やっぱり割合的にはアジアの方の方が多いです。
山田:うちは半分狙ってのところはあります。タイ人がね、ビザが無くなったんです。10日間とかだったかなビザなしで旅行できるようになって。どないしたらもっとタイから人が来てくれるか会議したりね。そのときはピンポイントでタイをターゲットにしよう思ってタイ語のホームページもやりました。そしたらビザがなくなった瞬間に来てくれたんですよ。
浅田:うちもタイから結構来てくれてたんですが、ホテル東洋の場合はちょっと欧米色を出したくて。
浅田:インスタとか外に発信するところは欧米系の人たちばっかりの画像しか出さないとか。実際に来てみたら中国韓国台湾で8割占めている日でも1人の欧米人と写真を撮ってアップしてとか(笑)ターゲットをわかりやすく見せるっていう。
山田:ちょっと東洋見に行きましょうか!今の話絶対見てもらったほうがわかると思いますんで。
山田:来山とは全然違うでしょ?
浅田:昔の看板は漢字で東洋って書いてあって。それも剥がれ落ちてきているようなやつだったので、改装のタイミングでアルファベット表記にして全部英語関係に変えていきました。
浅田:このグラフィティ―の前とかですね。ホテル来山はロビーって感じだったんですけど、うちは交流できるようにコモンルームをつくって。中でいろいろな旅の話をしてもらえるようなスペースになってます。
浅田:自由に書いていいよっていうのが分かるように僕が一番最初に書きましたからね。もうどっかに埋もれて無くなったんですけど(笑)長期で滞在する人のためにキッチンも充実させて。最低限の自炊ができるように鍋とか箸とかコップとか。昔はキッチンがなかったんですよ。もともとここは帳場さんの住み込み用の部屋で、それを入れ替えたんです。
山田:来山も従業員の寝室やったもん(笑)キッチンがあるということはWEBでもアピールしてます。バックパッカーだけじゃなくて旅行者でもめっちゃ使うてます。朝とかほんまにいろんな匂いしますし、日本には無い香辛料使うから(笑)
浅田:お客さんが使いやすいように大浴場もぜんぶシャワー室に変えてシャンプーリンスボディソープもつけてます。この辺のホテルなら今は全部ついていると思いますけど。
山田:シャワールームとか基本の設備はどこも快適ですよ!外国人を集客するという大きな目的は一緒なんですけど、それぞれのやり方でどういう層をとっていくかはみんなバラバラ。みんながいろいろなことをするからいろいろな方に来てもらえるようになったんです。
浅田:ベースは整えつつ、その中でうちの特徴は壁の絵ですかね。一応色出していこうかなと思って(笑)館内の画のほとんどが来たお客様に描いてもらってます。
山田:うそあれも?そうなんやめっちゃうまいやん・・・
浅田:そうみんなめちゃくちゃうまい(笑)ネットでここを知ってもらって、私も描きたいって描くためだけに来てくれたり。
山田:これ描くのめっちゃ時間かかるんちゃうん?
浅田:うちは5階建てでもう5階まで階段の絵は埋まったかなって(笑)
山田:こんなん描いてるいうたら、私も描きたい俺も描きたいって良い連鎖!みんなに泊まりに来てほしいっていう目的は同じでも、いろいろな個性を発揮していろいろなかたちになっていってるのが今一番面白いところですわ。新しくできた「ホテルPivot」っていうところがあるんですよ。ホテルタイプやけどちょっと遊び心満載のホテルにしようと思って(笑)
ちょっと見に行きましょう!
山田:ロビーのこれ昔の大浴場やったんです(笑)
浅田:作ったと思ってたわ・・・
山田:ここね昔は簡易宿所だったんですよ。2020年の7月1日に全部のボルト抜いて壁と鉄骨だけ残してオープンして。
ここに簡易宿所の時の動かされへんポンプかなんかわからないのがあって。動かされへんからガラス張りにしてこれ飾ってます(笑)
山田:でしょ。廊下がすごい光ってたり途中で合わせ鏡とか作ったり(笑)両側がガラスになっていて、どどどって見えるんですよ。
山田:ははは(笑)あとここはユニットバスもやめたんです。メインターゲットは外国人とか日本人の風呂トイレ付きの部屋がいい人にして。来山では風呂トイレが共用だからそれが嫌って人にちょっと待ってください!と。
山田:体重計がね、めちゃめちゃいいんですよ。これ体重を計るために体重計置いているわけじゃないんですよ。
・・・なんでしょう?
浅田:ノーヒント(笑)
山田:正解はですね・・・飛行機の荷物!体重計貸してってめっちゃ言われるんです。入り口のロビーのところでいっぱい荷物詰めたりして。
浅田:うちも吊り下げるタイプの測りを置いてます。LCCは荷物の重さにめちゃくちゃ敏感。
山田:うちは結構グループも多いんです。学生さんの団体さんとか学生で東京の方から大阪に来るとか。日本中からユニバに行くために大阪に来るとかそういうのはすごい多いです。外国人にもグループ友達同士4、5人のグループとか、あとたまに家族とかそういうのも。
「ホテルみかど」の新館は部屋の壁を開けられるようにして、一つの大きな部屋にもできるようにしました。団体用で10人ちょっとくらいはいけますよ。
浅田:僕がやってる「ホテル太洋」はクラブチームの試合とかで生徒5、6人と先生がついてきたりしてます。
浅田:あとはイベントのときはやっぱり人多いです。
山田:アーティストが京セラドームでライブやるときです。ジャニーズのめっちゃ大きなライブがあると、女の子いっぱいぐわーって!
浅田:みんなアイドルのうちわさしたカバンしょって来ます(笑)
山田:ジャニーズのでっかいライブやったらお客さんの7割女の子。
山田:イベントはめちゃくちゃ大きな集客なので、うちのフロント中にもイベントカレンダーがあります。それ見て確認して、この時期たくさん来るだろうなと。
大阪公演やから大阪の人が行く、北海道公演だから北海道の人が行くじゃなくて、みなさんいろんな公演を山ほど回ってらっしゃるので。
浅田:人気なアーティストのライブは落選ばっかりなので、北海道から沖縄までとりあえず申し込んで、福岡と仙台当たったから行ってくるとか。
山田:で、宿代は節約してるっていう(笑)
浅田:就活生も多いですね。特に3月は。
山田:九州とか四国の方からいっぱい来て、一週間くらいずーっと泊まって行くとか。就活プランっていってちょっと安めなの作ったりします。色々な層が来ますのでそれに対応して中身どないする?ほなこれでいこうとか。
山田:最近面白いのがね、そこらへんで飲んで入ってくる人がめちゃくちゃ多いんですここ。
従業員さん:圧倒的に男性の方が多いですね9割くらい男性ですかね。ウォーク率で言ったら。
浅田:予約なしでいらっしゃるお客さんです。
山田:飲み会帰りの利用も全然OKです。家までのタクシー5000円かかるから泊まる方が安いって人いっぱいいますから。
浅田:東洋でもチェックインして飲みに行ってくるわ!みたいな。岸和田から来た人とか、終電を気にしないように使う人も多いですね。
浅田:そうそう。この辺りはホルモン屋とか飲めるところがあるから、そういう人が増えるかもしれないです。
山田:飲み会帰りの人もすごい多いので、僕らの希望としてはまず近隣の方、大阪の人にここら辺の飲食店をまず受け入れてもらいたいって思うんです。そしたら西成のイメージがどんどん変わっていって、またさらに飲食店が増えて人が集まってくれたら一番ありがたいなって。
浅田:飲食店がいっぱい盛り上がっていけば街が楽しいんで、遠くからでもここに泊まろうとなっていくと思います。
山田:線路渡ったら新世界なんで、お店も沢山集まってますし案内しやすいですね。
浅田:あと有名なところばっかりですが、やまき、マルフク、なべや、ちとせとか。でもみんな調べてくるから知ってます。他ないですか?とか。いやいやそんな言われてもって(笑)
山田:中国カラオケについても良く聞かれます。
浅田:結構うちも聞いてきますね、あそこぼったくられへん大丈夫?みたいな。
山田:そういうの聞かないんでね、ぼったくられるとかはないですよ。だから全然行ってきたらいうて、なんやったら中国カラオケ推していこうかなと思っているくらいで。コロナあけたら中国向けの言語のところには中国カラオケをけっこうアピールしていこうかなと。
浅田:それぞれの国から呼び込むのに同じことしても効果がないから、中国台湾向けには中国カラオケ!
山田:コロナ明けたらそれをやりたい(笑)
浅田:テレビの取材でよく西成が変わったみたいなテーマで来るんですけど、うちの外国人になんでこんな西成に来たんですかって聞くんです。お客さんは、なにが?この場所になにか問題があるの?みたいな反応で。わざわざ暴動があってどうのみたいな話ばっかりするから、そんな質問するんやったら取材断りますよって。みんなが言うのはこんな街何でもないやんみたいな感じの返事で、そこから話進めへんみたいな。
山田:実際にアジアの安宿街とか、もっともっと治安悪いですから。それをみんな知ってるから何が危険なのくらいの(笑)大阪の人、近くの人ほどあんまりよく分かっていなくて、結果よく分からずに帰っているのが現状だと思うんです。
浅田:昨日ネットで記事書いている人が来て質問してきたときも、「すみません、あいりん地区ってどの辺ですかね」みたいな。いやこの辺なんですよ。何にも知らないで「ドヤ街って言われているところどの辺まで行けばわかりますかね」みたいな。ここに来てもここやって気づかへん。
山田:その話一番おもろいわ(笑)あいりん地区どこですかって、え、ここですけどって。何書くんやろう?
浅田:みんなが自分の中で持ってるイメージってどんなんなのかな。ここ来てそこがそうだと思わない。イメージよりも街が変わっているってこと。
山田:一歩足を踏み入れてもらったらこんなもんかって(笑)こんなもんって思ってもらうための一個のきっかけを作っていきたい。
浅田:とりあえず来てみようとか、いい意味でこんなもんかと思ってくれる人が増えたら嬉しいですね!
簡易宿所
新今宮の簡易宿所のモットーは、清潔・安心・快適。一泊1600円程度から泊まれる簡易宿所は、心のこもったサービスを提供し、バックパッカーやビジネスマン、急な出張から長期滞在まで多様なニーズに応えている。
ゲストハウス
ゲストハウスの醍醐味といえば、なんといっても人と人との交流。オープンスペースに寄せ書きを残したり、カフェでゆったり語らうのも楽しみ方のひとつ。スタッフや他の旅行者におすすめスポットを聞いてみるのもいいだろう。
ビジネスホテル
簡易宿所を改装した落ち着きのある空間や、ロマンチックにライティングされた部屋まで。好みや用途に合わせて様々な選択肢から部屋をチョイスできる。
監修・協力:西成情報アーカイブ