近年、新今宮には大きな荷物を持って移動する多くの外国人が多く見られた。外国人が向かう先はゲストハウスやホテルなどの様々な宿泊施設。新型コロナウィルス感染症の流行以降、外国人旅行客は減少したものの、今も多くの外国人が住んでいる。彼らは新今宮のどこに魅力を感じ、移り住んだのだろうか。地元に住む3名の外国人にお話を伺ってみた。
安くて便利、新今宮のゲストハウス。
生まれはカナダの西海岸。それから、ニュージーランドに移って今は日本にいる。だから、ぼくは太平洋人、パシフィッカーやね(笑)
英語の教師とか、たこ焼き屋でも働いていたことがある。でも、ほんまは僕はプログラマー。けど、僕のビザは教師のビザだから、プログラミングの仕事ができひん。プログラミングの仕事が楽しいからしたいけど。
子どもの頃から日本がおもろそうやと思ってた。日本の文化がユニーク。いつも海外の人はアニメ、ゲーム、漫画とかから、日本の文化を学ぶ。だから日本はちょっとフィクションみたいだった。けどフィクションじゃない。本当にある場所だということを確かめたかった。そして、4年前に日本に来た。
まずは14年前におとんとアジアへ旅行に来た。日本には1週間ぐらいいた。その経験がめちゃよかった。大阪の人がいろいろ親切にしてくれた。それからまた日本に行くと決まった時に、大阪人は優しくておもろいといろんな人から聞いていた。いつもギャグとか言ってるって。僕は大阪人みたいやから合いそうと思った。
日本に長く滞在したかった。安い宿を探していたら新今宮にたくさんあった。最初は今とは違うホテルに4ヶ月住んでいた。1泊1000円で部屋は1畳。台所はなし。インターネットはロビーだけ。お風呂・シャワーは週に3回。トイレは和式。外国人は僕しかいなかった。めっちゃディープな大阪体験だった。
違うホテルを探していたけど、ホテルの入口にある値段表を見るとどこも高い。仕事帰りにたまたまホテルの前を通った。その時スタッフがいたので値段を聞いてみた。「1泊1700円だけど、1ヶ月なら3万3000円だよ」と教えてくれた。
部屋は3倍のサイズになった。台所もある。部屋にインターネットがある。タオルもある。テレビゲームもある。いつでもシャワーができる。トイレにはおしりスプレーがある。3000円の差だけどメリットはたくさんあった。だからここに引っ越した。もう4年ぐらい住んでる。
めっちゃ便利。コンビニと自販機がたくさんある。地下鉄は3分。環状線は5分。スーパーは8分。通天閣、あべのハルカスは10分。天王寺公園と美術館、新世界もめちゃ近い。でんでんタウン、なんば、道頓堀、心斎橋、アメ村も近い。ここはめちゃいい場所だと思う。
いつも危ないんじゃないのって言われる。でも、日本は世界で一番安全な国。実際、僕は危険なことは何もなかった。むしろ、日本の文化の方が危ない。みんな働きすぎ。ストレスありすぎ。
ここはフランス人がめちゃ多い。あとは、イギリス人、ドイツ人、オーストラリア人、ニュージーランド人、カナダ人、アメリカ人、ブラジル人、ペルー人とか。中国人と韓国人も多いね。
全員とは言わないけど、旅人ならここが好きになると思う。京都・奈良・兵庫・和歌山いろんな場所に1日で旅行ができる。飲み屋がおもろい。何より安い。一度、遊びにきたらええわ。
ベトナム人が暮らしやすい街、新今宮。
ベトナムのハノイの近くで生まれました。ベトナムで看護大学を卒業してから奨学金をもらって2012年に日本に来ました。日本語学校で日本語を勉強しながら、日本の看護師の資格を取る計画でした。
日本語学校に通っている最初の1年半は生野区の桃谷駅周辺に住んでいました。卒業してからこの近くのマンションに引っ越しました。だからずっとこの周辺にしか住んでないです。
日本に来てから制度が変わって、看護師の資格を取るのが難しくなってしまって、語学学校を出てからは老人ホームで働いていました。老人ホームで働いている時に、同僚のベトナム人だった今の夫と出会って結婚しました。新今宮周辺はベトナム人が結構増えてきたけど、ベトナムのお店がなかった。新今宮はベトナム人も多いし便利だしいい街なのに、ベトナムのお店がなくてもったいないなと思っていた。夫と場所を探して、2018年にお店をオープンしました。
ベトナム人がたくさん来てくれて、特に土日とかみんな集まって、もうわいわいうるさいくらい(笑)日本のお客さん来るけど、ベトナム人が多いですね。80%はベトナム人。日本人は10〜20%。私は土日だけ手伝って、平日は日本人学校で事務の仕事をしています。
2021年から隣に雑貨店をオープンしました。上は従業員の住まいとして使って、1階はベトナムの食品を販売したり、ベトナム人が卒業式、花見とか、紅葉狩りなどイベント時に着るアオザイのリースをしています。
便利!物価もスーパーも安いし、家賃もそんなに高くない。駅もたくさんある。一緒に働いていた日本人が新今宮に住んでるって言うと「怖くないの?」って心配してくれたけど、私は8年ぐらい住んでて、特にそんなことなかったです。
うん、日本人とっても優しい。悪い人とかあったことないよ。特に「困ったことあるか〜?」「なんでも相談してね」って声かける人多いし。外国人嫌いとか、嫌われてるとか、そんなことないけどね。
どこの国でもありうることだと思います。お店にくる子にも時々います。私も日本に来て、言葉がまだちゃんとしゃべれない時、そういうことがあった。やっぱり一緒に働くのに、言ってもわからないとか、指示してもできないとか、毎日そんなことがあったら、気が短い人だったら我慢できないと思う。もうほんまに腹立つなぁって思ったけど優しい人も多かった。みんなきちんと教えてくれた。がんばってたら大丈夫だと思っています。
最初の1〜2年はベトナム人が日本に慣れないことが原因ということもあります。でも、受け入れる会社側がベトナム人に慣れてないというのもあります。はじめてベトナム人を受け入れるケースも多いです。みんな慣れていないことが原因。
日本に来て勉強すると、日本人の働き方とか考え方もわかってくる。日本人と一緒に働くから、日本人のこと見て、勉強して慣れていかないといけないし。長く日本に住むベトナム人はみんな慣れてきていますね。
そうですね。知り合いのお店も多いです。2018年はここだけやったけど、2020年からはもう食品販売はどこにでもある。この辺で10店舗くらい。食品販売だけね。料理店だけでも新世界で3つあります。
コロナになったから仕事がないからお店をオープンしているというのもあります。お店をオープンすると経営ビザが取れる。コロナの今、これが一番ビザを取りやすいんです。
会社で働いたら自由な時間ができない。正社員なら日曜日しか休めないとか。でも経営するんだったら時間は自由。子どもがいる人とかは自分でお店したいと思います。
観光で人がいっぱいになったらいいな。通天閣も天王寺動物園もあるし、コロナじゃなかったら結構ここにもっと人が集まると思います。今ベトナムの経済も発展して、日本がベトナム人にも旅行の人気になったんですよ。たぶんコロナが収まったら、みんなどんどん来るはず。
私はずっとここに住んでいるから、どこにも引っ越ししたくないです。慣れてきて、どこ行っても不便って思っちゃった。子供がいるから、小学校とかのことを考えないとあかんけど、引っ越してもここの近くに住みたいなと思っています。
人がすぐにつながれる、それが新今宮。
デンマーク生まれ、カナダで育ちました。カナダで日本人観光客を見ていると、バスで団体旅行で来て写真撮って帰るだけのイメージだった。でも、カナダで知り合った日本人の若者の話を聞くと全く違う印象だった。日本は外から見てると不思議な国でずっと興味を持っていました。
日本のワーキングホリデービザがあるということを聞いて、これはチャンスだと思って、バックパックにTシャツを何枚か突っ込んで気楽に来ました。日本には1年ぐらいのつもりで来たけど、もう今年で30年目ですね。日本に来たときは23歳だった。見た目、考え方、いろんなものが今とは違う。それと、重さも40キロ違う(笑)
最初は東京に3日間いた。通ってる人に挨拶しても返って来なかった。電車で日本を旅しながら大阪に着いた。通ってる人にあいさつをしたらすぐに返事が返ってきた。大阪はあったかいあいさつが多かった。だから、大阪にしようと思った。一番安いところを探していると、ちょうど新今宮の南の花園町あたりにいいところがあった。
そのときの花園町は、私の日本のイメージとちょっと違った。ゴミ一つ落ちていない、きれいな街という感じじゃない。当時の仕事は夜、新大阪のあたりでバーテンダーやってて、夜中に帰ってると真っ暗な橋の下から路上生活してるおじさんたちから、毎回「おかえりなさーい!」って大きな声であったかい挨拶をしてくれた。だから周りのイメージとは「ここ危ない」とみんな思ってたのが、私のイメージはワイルドだけどあったかい人が多いなと思いました。
今でもこのあたりはあったかい。それは日本のみんなが見習うべきことだと思います。人の繋がり。そこが新今宮のいいところ。
最初はバーテンダーしながら日本語を勉強してた。酔っ払いと話してたらずっと同じ話を繰り返すから勉強になるね(笑)
日本語を覚えてから、いろんなつながりができて貿易の仕事をすることになった。スイス製の刃物研ぎを売ろうと思って堺の刃物の会社に売り込みに行ったら、その会社に研ぐものはいらないけどうちの商品を輸出してくれませんかって逆売り込みされた。輸出に言葉できる人必要だから、どうですかって。で、本当にそこで、堺のそして日本の包丁の素晴らしさに目覚めた。
でも、確かに輸出にはもっと説明が必要。そのためにショールームが欲しかった。堺の刃物の会館があるからそこで当番やってたんだけど、自分でやりたくなって新世界でお店を出した。最初の半年は輸出の仕事もやりながら、以降は会社をやめてお店だけに。2012年の秋から、今年で10年間になります。
周りから「なんでそこでやります?」「あぶないよ」とか言われた。でも、ここはすごくアクセスがいい。南海、阪堺、JR、地下鉄が通ってる。あべのハルカスができてから天王寺もアクセスしやすくなった。難波までも歩いて10分。
通天閣を知らないタクシー運転手はいないから、場所がわかりやすい。そして、通天閣の上から真下の新世界を眺めていると。すごいいろんな人がいる。いろんな仕事、いろんな服。スーツの人なんてほとんどいない。本当に面白い場所。古くからの昭和のイメージもまだ残ってる。
店をオープンしたときに、フライヤーを作って30枚ぐらい店の前に置いた。誰か1枚とか2枚とか持って帰るかな〜と思ったら、次の日には全部消えてた。そんなにすぐになくなるわけないから嫌がらせだと思った。それで落ち込んで飲みに行ったら、そのお店のカウンターにぼくのお店のフライヤーが置いてあった。聞いたことない店にも置いてあった。みんなにフライヤー配ってくれてたの。ほんとびっくりしました。まわりがすごく応援してくれた。外国人だからどう扱われるか心配してたけど、そんなことなくてすごい嬉しかった。
最初はお客さんが少なかった。2011年の春になったら東日本大震災で観光客が激減した。最初は地元だけしか来なかった。しかも、僕のこの顔で日本の包丁を売ってるハードル高かったけど、そのおかげで逆にみんながちゃんと話を聞いてくれたと思う。
それから口コミで地元のお客さんが増えて、そこから、震災が落ち着いてちょこちょこ海外から観光客が来て、口コミでまたお客さんが増えました。店がだんだん大きくなって、東京店にも2015年オープン。今スタッフで大阪17人、東京で5人。
最初はほとんど海外の観光客がいなかったけど、途中でだいぶ増えた。いろんなツアーがうちの店に入ってきたおかげで、2017年の海外の口コミウェブサイトのTripadvisorで、大阪の観光スポット1位になった。観光スポットじゃないのに(笑)
お客さんがうちだけじゃなくて新世界全体を「これは日本!」と学んで、いい経験になって帰っていったのがうれしい。そのあとはコロナ関係で観光客がうんと減りましたけど、また地元のお客さんが少しずつ口コミで増えてます。
本当に人が魅力だと思います。昔の時代が残ってる。それが好き。ゲームセンター行ってたら、私が小さい頃のゲーム今でも置いてますし。どこの喫茶店に行ってもカラオケついているし。あとは人としゃべりやすいですね。すぐ会話になる。
探検するのが面白い。本当にドアの後ろになにがあるかわからない。やっぱり昔からやってるレストランとか、小さなドアを開けたら、中は大きなレストランで、満席で、入ってすぐに会話になってみたいな。
東京とか行ってたら知らないところは入りにくい。他のお客さんがいないのに1時間で1人で座ってそのままバーテンダーも何も声かけない。大阪は人とすぐ会話になります。大阪にいたら寂しくない。人と人のつながりがいい。その中でも新今宮は人とつながるのがいちばん早い。
ここ最近何年かで新今宮は観光客が増えて、ホテルもできた。雰囲気がよくなって、確かにきれいになりました。でも、もともとのコテコテの大阪の雰囲気がなくならないように、そういうのも残してほしい。全部きれいなホテルになるのではなく、ちょうどいいバランスが取れたらいいなと思います。小さな心がつながれる場所をずっと残してほしいです。
監修・協力:西成情報アーカイブ
労働者の宿がバックパッカーの聖地に。新今宮の簡易宿所 <ゲストハウス・ホテル篇>